tcsh は、バークレイ版 UNIX の C シェル csh(1) と完全に
互換性があり、さらに機能強化したシェルです。
対話的なログインシェル、またシェルスクリプトのコマンドプロセッサの
両方の用途で使われるコマンドインタプリタです。
tcsh には、コマンド行編集 (コマンド行編集の項を参照)、
プログラム可能な単語の補完 (補完と一覧の項を参照)、
スペル訂正 (スペル訂正の項を参照)、
履歴 (ヒストリ置換の項を参照)、
ジョブ制御 (ジョブの項を参照)、
C 言語風の文法があります。
新機能の章では、csh(1) には存在しない、tcsh の
主な追加機能について説明しています。
このマニュアルを通じ、tcsh の機能のうち、
csh(1) のほとんどの実装 (特に 4.4BSD の csh) に
ない機能について、ラベル (+) をつけてあります。
そして、csh(1) にあったけれども文書化されていなかった機能に
ラベル (u) をつけてあります。
引数リスト処理
シェルへの 1 番目の引数 (引数 0 番) が `-' の場合、シェルは
ログインシェルになります。
シェルを -l フラグを指定して起動することでも
ログインシェルにできます。
残りのフラグは以下のように解釈されます。
-b
-
このフラグは、オプションの処理を強制的に中断させる場合に使用します。
このフラグ以降の引数はすべて、オプションではないものとして
処理されます。これにより、混乱を避け、小細工をしなくても、
シェルスクリプトにオプションを渡すことが可能になります。
set-user ID スクリプトは本オプションなしでは実行できません。
-
-c
-
コマンドを、本フラグの次にくる引数 (この引数は省略できません。
また、1 つだけである必要があります) から読み込み、実行します。
この引数は、あとで参照できるように、シェル変数 command に
格納されます。残りの引数は、シェル変数 argv に代入されます。
-
-d
-
ログインシェルであるかどうかにかかわらず、
スタートアップとシャットダウンの項で解説されているように
~/.cshdirs から、ディレクトリスタックを読み込みます。(+)
-
-Dname[=value]
-
環境変数 name に値 value を設定します。(Domain/OS のみ) (+)
-
-e
-
起動したコマンドが異常終了したり、0 でない終了ステータスを返したときに、
ただちにシェルを終了します。
-
-f
-
~/.tcshrc を読み込まずに無視するので、
起動が高速になります。
-
-F
-
プロセスを生成する際に vfork(2) の代わりに
fork(2) を使います。(Convex/OS のみ) (+)
-
-i
-
たとえ端末上で実行されていなくても、対話的に動作し最上位レベルの
入力の際にプロンプトを表示します。入力と出力がともに端末である場合、
本オプションなしでもシェルは対話的に動作します。
-
-l
-
ログインシェルとなります (-l が、指定された唯一のフラグである
場合にのみ有効です)。
-
-m
-
実効ユーザに属していなくても ~/.tcshrc をロードします。
新しいバージョンの su(1) は -m をシェルに渡すことが
できます。(+)
-
-n
-
コマンドの解析は行いますが、実行はしません。
シェルスクリプトのデバッグに役立ちます。
-
-q
-
SIGQUIT (シグナル処理の項を参照) を受け付けるようにし、
デバッガのもとで使われても作動するようになります。
ジョブ制御は無効になります。(u)
-
-s
-
標準入力からコマンドを読み込みます。
-
-t
-
入力から 1 行だけ読み込み、それを実行します。入力行の改行の直前に
`\\' を置くことで、次の行への継続を行うことができます。
-
-v
-
シェル変数 verbose を設定します。
これにより、ヒストリ置換された状態のコマンド行を表示するようになります。
-
-x
-
シェル変数 echo を設定します。これにより、実行直前に、
実行するコマンドを表示するようになります。
-
-V
-
~/.tcshrc を実行する前に、シェル変数 verbose を設定します。
-
-X
-
~/.tcshrc を実行する前に、シェル変数 echo を設定します。
-
-X
-
に対する -x の関係は、-V に対する -v の関係に
相当します。
フラグ引数の処理のあと、もし引数が残っていて、かつ、
-c, -i, -s, -t のいずれのフラグも
指定されていなければ、残っている引数のうち最初のものは
コマンドファイル、つまり「スクリプト」の名前とみなされます。
シェルはこのファイルをオープンし、`$0' による置換に備えて
ファイル名を保存します。
多くのシステムは、スクリプトが本シェルと互換性のない
version 6 または version 7 の標準のシェルを使っているため、
スクリプトの先頭の文字が `#' でない場合、
つまりスクリプトがコメントから始まらない場合、本シェルは
それらの「標準」のシェルを起動して実行します。
残りの引数はシェル変数 argv に設定されます。
スタートアップとシャットダウン
ログインシェルの場合は、実行開始に際し、まずシステムファイル
/etc/csh.cshrc と /etc/csh.login を読み込んで実行します。
そしてシェルを起動したユーザのホームディレクトリの中から、
まずはじめに ~/.tcshrc (+) を読み込んで実行します。
もし、~/.tcshrc が見つからない場合は、~/.cshrc を
読み込んで実行します。
次に、~/.history (もしくは、シェル変数 histfile の値) を、
その次に ~/.login を、最後に、~/.cshdirs (もしくは、
シェル変数 dirsfile の値) (+) を読み込んで実行します。
コンパイルの仕方によって、シェルは /etc/csh.cshrc の後ではなく前に
/etc/csh.login を読み込み、
~/.tcshrc (または ~/.cshrc) と ~/.history の後ではなく前に
~/.login を読み込む場合があります。
シェル変数 version を参照してください。(+)
ログインシェルでない場合は、/etc/csh.cshrc と、
~/.tcshrc (または ~/.cshrc) のみを起動時に読み込みます。
スタートアップファイルの例は、
http://tcshrc.sourceforge.net
を見てください。
stty(1) や tset(1) のようなコマンドは、ログインする
ごとに 1 度だけ実行される必要がありますが、これらのコマンドは、
普通は ~/.login ファイルに入れます。
csh(1) と tcsh の両方で同じファイルのセットを使う
必要があるユーザは、~/.cshrc だけを使い、その中で
シェル変数 tcsh (値は任意) があるかどうかチェックして
から、tcsh 特有のコマンドを使うようにします。または、
~/.cshrc と ~/.tcshrc の両方を使うが、~/.tcshrc で、
source コマンド (組み込みコマンドの項を参照) を使い
~/.cshrc を読み込むようにします。
以下、このマニュアルの残りの部分で `~/.tcshrc' と表現したときは、
「~/.tcshrc、または ~/.tcshrc が見つからない
場合は ~/.cshrc」という意味で使います。
通常、シェルはプロンプト `> ' を表示し、端末からコマンドの読み込みを
開始します (引数処理と、コマンドスクリプトを含むファイルの処理のための
シェルの使用については、後で説明します)。
シェルは、入力されたコマンド行の読み込み、読み込んだコマンド行を単語に
分解、およびコマンド履歴への格納、コマンド行の解析、
コマンド行の中のコマンドそれぞれの実行を繰り返します。
ログアウトするには、空の行で `^D' とタイプするか、`logout' するか、
`login' するか、シェルの自動ログアウト機構 (シェル変数
autologout を参照) を使います。
ログインシェルが実行終了する際には、ログアウトの状況に応じて
シェル変数 logout を `normal' か `automatic' に設定し、
/etc/csh.logout ファイルと ~/.logout ファイルにある
コマンドを実行します。
コンパイルの仕方によっては、シェルは、ログアウト時に DTR を落とす
ことがあります。これについてはシェル変数 version を参照してください。
システムのログインファイル名、ログアウトファイル名は、
異なる csh(1) 間での互換性を保つために、
システムごとにファイルが違います。これについては、
関連ファイルを参照してください。
編集
はじめに、コマンド行エディタについて説明します。
補完と一覧と、スペル訂正の 2 つの機能は、
編集コマンドとして実装されていますが、
特に分けて説明する必要があるため、項を改めて説明します。
最後に、編集コマンドの項で、シェルに特有の編集コマンドについて、
一覧をあげ、デフォルトのバインドとともに説明します。
コマンド行編集 (+)
コマンド行の入力データは、GNU Emacs や vi(1) で使われているものと、
よく似たキーシーケンスを使って編集できます。
シェル変数 edit がセットされているときのみ、編集できるように
なっています。対話的なシェルでは、この値はデフォルトで
設定されています。
組み込みコマンド bindkey で、キーバインドを変更したり、
表示したりできます。
デフォルトでは、Emacs 形式のキーバインドが使われています
(違う方法でコンパイルしなければそうなります。
シェル変数 version を参照)。
しかし、コマンド bindkey で、キーバインドを vi 形式に
一括して変更できます。
シェルは、つねに矢印キー (環境変数
TERMCAP で定義されたものです) を、次のように割り付けています。
+4
下矢印
-
down-history
-
上矢印
-
up-history
-
左矢印
-
backward-char
-
右矢印
-
forward-char
他の 1 文字バインドによって、変わっていなければこのようになります。
このようなバインドにしたくない場合、settc を使って、矢印キーの
エスケープシーケンスを空の文字列にセットすることができます。
ANSI/VT100 の矢印キーシーケンスは、つねにバインドされています。
その他のキーバインドは、そのほとんどは、Emacs、vi(1) ユーザが
予想できるものです。また、簡単に bindkey コマンドで表示させる
こともできるので、ここで、それらのバインドを並べあげる必要は
ないでしょう。
同じく、bindkey コマンドは、それぞれの編集コマンドを
簡単な説明付きで、表示させることができます。
注意: 「単語」という概念に関して、編集コマンドは、シェルと同じ概念を
持たないことに注意してください。
エディタは、シェル変数 wordchars の中にはない非英数文字
(英文字、数字のどちらでもない文字) によって単語の区切りを決めます。
一方、シェルは、ホワイトスペース (空白、タブ、改行) と、
字句構造の項で列挙する特殊な意味を持つ文字のいくつかを
識別します。
補完と一覧 (+)
シェルは、一意に決まる短縮形を与えられると、しばしば単語の補完を
行うことができます。
単語の一部 (たとえば `ls /usr/lost') をタイプして、タブキーを押すと、
編集コマンド complete-word が実行します。シェルは、
ファイル名 `/usr/lost' を補完して `/usr/lost+found/' にします。
このとき、入力バッファの中で、不完全な単語を完全な単語で置き換えます。
(注意: 末端の `/' について: 補完では、ディレクトリ名を補完すると
最後に `/' を付け加えます。
そして、ディレクトリ名以外の単語を補完すると、末尾に空白文字を
付け加えます。こうすることで、タイプ入力が速くなり、また、
補完が成功したことが一目で分かります。
シェル変数 addsuffix のセットをはずせば、
これらを付け加えなくすることもできます。)
合致するものが見当たらない場合 (おそらく `/usr/lost+found' が
存在しない場合でしょう)、端末のベルが鳴ります。
単語がすでに補完されている場合 (システムに `/usr/lost' が
存在する場合か、あるいは、ユーザがはるか先まで考えて、すべてを
入力してしまっていた場合でしょう)、`/' または空白文字が末尾に
まだなければ、付け加えられます。
補完は、行の一番最後でなくても、途中どこででも機能します。
そして、テキストの補完によって、その分、行の残りは右方向へ押されます。
単語の中間で補完された場合、しばしばカーソルの右側に文字が残り、
それを消すはめになることもあります。
コマンドと変数は、ほとんど同じ方法で補完できます。
たとえば、`em[tab]' とタイプした時、使用しているシステムで
`em' から始まるコマンドが唯一 emacs だけならば、
`em' は `emacs' と補完されます。
補完は、path 中のディレクトリにあるコマンドか、
フルパスが与えられれば、そこにあるコマンドを見つけ出すことができます。
`echo $ar[tab]' とタイプした時、他に `ar' から始まる変数がなければ、
`$ar' は `$argv' と補完されます。
シェルは、入力バッファを解析して、補完したい単語を、ファイル名としてか、
コマンドとしてか、変数としてか、どのように補完すべきかを決めます。
バッファの中の最初の単語と、`;', `|', `|&', `&&', `||' の
すぐ次にくる単語は、コマンドとみなします。
`$' で始まる単語は、変数とみなします。
その他のものは、ファイル名とみなします。
空の行は、ファイル名として `補完されて' います。
いつでも、`^D' とタイプすることで、編集コマンド
delete-char-or-list-or-eof を実行させて、
補完可能な単語の候補を並べ挙げることができます。
シェルは、組み込みコマンド ls-F (q.v.) を使って、
補完可能な候補を並べ挙げます。
そして、プロンプトと未完成のコマンドラインを再表示します。
次に例を示します。
4
> ls /usr/l[^D]
lbin/ lib/ local/ lost+found/
> ls /usr/l
シェル変数 autolist をセットしていれば、シェルは、
補完に失敗したときはいつでも残りの選択肢を表示します。
4
> set autolist
> nm /usr/lib/libt[tab]
libtermcap.a@ libtermlib.a@
> nm /usr/lib/libterm
シェル変数 autolist を `ambiguous (あいまいな)' に
セットした場合は、補完に失敗して補完される単語へ新しい文字を
それ以上追加できなくなったときに限り、選択肢を表示します。
補完するファイル名には、変数、自分もしくは他人のホームディレクトリ
(`~' で短縮したもの。ファイル名置換の項を参照)、
ディレクトリスタックエントリ (`=' で短縮したもの。
ディレクトリスタック置換の項を参照) を含めることができます。
たとえば、次のようになります。
4
> ls ~k[^D]
kahn kas kellogg
> ls ~ke[tab]
> ls ~kellogg/
あるいは、
4
> set local = /usr/local
> ls $lo[tab]
> ls $local/[^D]
bin/ etc/ lib/ man/ src/
> ls $local/
変数については、編集コマンド expand-variables を指定して使っても
展開できることに注意してください。
コマンド delete-char-or-list-or-eof は、行の最後でのみ
リストを表示します。
行の中間の場合、カーソル位置の文字を消去します。
空行の場合、ログアウトします。ただし、ignoreeof がセットされて
いれば、何もしません。
`M-^D' は、編集コマンド list-choices にバインドされていますが、
これは行中のどこでも、補完の候補のリストを表示します。
list-choices (または、delete-char-or-list-or-eof のところで
列挙するコマンドで、消去するコマンド、しないコマンド、
リスト表示するコマンド、ログアウトするコマンドのどれでも)
は、そうしたい場合、組み込みコマンド bindkey で
`^D' にバインドすることもできます。
編集コマンド complete-word-fwd と complete-word-back
(デフォルトでは、どのキーにも割り付けられていません) を使うことで、
補完候補のリストを上または下に順に巡り、リスト上の現在の単語を、
次の単語または 1 つ前の単語に置き換えることができます。
シェル変数 fignore に、補完の際に無視するファイルの
サフィックスのリストをセットできます。
次の例を考えてみます。
4
> ls
Makefile condiments.h~ main.o side.c
README main.c meal side.o
condiments.h main.c~
> set fignore = (.o \\~)
> emacs ma[^D]
main.c main.c~ main.o
> emacs ma[tab]
> emacs main.c
`main.c~' と `main.o' は、fignore にサフィックスが
登録されているために、補完では無視されます
(しかしリスト上には表示されます)。
ファイル名置換の項で解説しているように、home に
拡張されないようにするために、`~' の前に `\\' が必要なことに
注意してください。補完の候補が1 つしかない場合は、
fignore の設定は無視されます。
シェル変数 complete が `enhance(拡張)'
にセットされていた場合、補完は 1) 大文字小文字の区別を無視し、
2) ピリオド、ハイフン、アンダスコア (`.', `-', `_')を、
単語を分ける記号であるとみなし、ハイフンとアンダスコアは
同等なものとみなします。
次のようなファイルがある場合、
4
comp.lang.c comp.lang.perl comp.std.c++
comp.lang.c++ comp.std.c
`mail -f c.l.c[tab]' とタイプすれば、`mail -f comp.lang.c'
のように補完され、^D の場合には、`comp.lang.c' と `comp.lang.c++' が
リストとして表示されます。
`mail -f c..c++[^D]' とタイプした場合は、`comp.lang.c++' と
`comp.std.c++' が表示されます。
次のファイルがあるディレクトリで、`rm a--file[^D]' とタイプした
場合、
4
A_silly_file a-hyphenated-file another_silly_file
の 3 つのファイルすべてが一覧表示されます。
なぜならば、大文字小文字の区別は無視されて、
ハイフンとアンダスコアは同等と解釈されるからです。しかしながら、
ピリオドは、ハイフンやアンダスコアと同等ではありません。
補完と一覧は、他にもいくつかのシェル変数の影響を受けます。
そのひとつ、recexact をセットすると、続けてタイプすれば
より長い単語に合致するような場合でさえも、
最短で一意に一致する単語に合致するようになります。たとえば、
4
> ls
fodder foo food foonly
> set recexact
> rm fo[tab]
この場合はベルが鳴るだけです。
なぜなら、`fo' は、`fod' または `foo' に展開できるからです。
しかし、さらに `o' とタイプすると、
4
> rm foo[tab]
> rm foo
`food' や `foonly' も合致するにもかかわらず、
補完は `foo' で完了します。
autoexpand をセットすると、補完を試みる前に、毎回、
編集コマンド expand-history を実行するようになります。
autocorrect をセットすると、補完を試みる前に、毎回、
その単語のスペル訂正をするようになります
(スペル訂正の項を参照)。
correct をセットすると、`return (enter)' キーを押したあと、
自動的にコマンドを補完するようになります。
matchbeep をセットすると、補完に際して、状況の変化に応じて、
ベルを鳴らしたり、鳴らないようにできます。
nobeep をセットすると、まったくベルを鳴らさないようにできます。
nostat には、ディレクトリのリストやディレクトリに
合致するパターンをセットでき、これらのディレクトリで補完機構が
stat(2) を実行しないようにすることができます。
listmax や listmaxrows にセットすることで、
まず問い合わせずに一覧表示する項目の数や、列の数を、それぞれ
制限することができます。
recognize_only_executables をセットすると、
シェルがコマンド一覧を表示する際に、実行可能ファイルだけを
一覧表示するようにさせることができます。ただし、動作はきわめて
遅くなります。
最後に、組み込みコマンド complete を使って、ファイル名、
コマンド、変数以外の単語を補完する方法をシェルに教えることができます。
補完と一覧は、グロブパターン (ファイル名置換の項を参照)
上では機能しませんが、編集コマンド list-glob と
expand-glob はグロブパターンに対し同等の機能として実行されます。
スペル訂正 (+)
シェルは、補完したり一覧表示するのと同様に、ファイル名、コマンド、
変数名のスペルを訂正することができることがあります。
個々の単語は、編集コマンド spell-word (普通は M-s と M-S に
バインドされています) でスペル訂正できます。入力バッファ全体は
spell-line (普通は M-$ に割り付けられています) で
スペル訂正できます。
シェル変数 correct に `cmd' を設定されておけば、コマンド名が
スペル訂正されます。`all' を設定しておけば、リターンがタイプされる
たびに行全体がスペル訂正されます。
autocorrect がセットされていれば、単語に補完を試みる前に
その単語をスペル訂正します。
スペル訂正が、ここで説明した方法のいずれかにより呼び出され、
コマンド行のどこかにスペル誤りがあると判断すると、
シェルは、次のように訂正済みのコマンド行を表示し入力を待ちます。
4
> set correct = cmd
> lz /usr/bin
CORRECT>ls /usr/bin (y|n|e|a)?
これに対し、`y' または空白文字で答えると、訂正済み行を実行し、
`e' で答えると、入力バッファに訂正前のコマンドを残し、
`a' で答えると、`^C' が押された場合と同様にコマンドを中止し、
それ以外の場合は、元のままの行を変えないで実行します。
スペル訂正は、ユーザ定義の補完を識別します
(組み込みコマンド complete を参照)。
もし、補完が実行される位置で、入力された単語が補完リストの中の単語に
似ていたとき、スペル訂正は、ミススペル記録して、見つかった単語を
訂正候補として提案します。しかし、入力された単語がその位置で、
どの補完候補にも合致しなかった時、スペル訂正は、
ミススペルを示しません。
補完と同様、スペル訂正は行のどこでも機能します。行の残りを右に
押し出したり、残りの余分な文字をカーソルの右に残したりします。
注意: スペル訂正は、意図どおりに動作する保証はありません。
そして、ほとんど実験的な機能として提供されています。
提案、改善する点があれば歓迎します。
編集コマンド (+)
`bindkey' はキーバインド一覧を表示し、
`bindkey -l' は編集コマンドの一覧と短い解説を表示します。
ここでは、新しい編集コマンド、または、特に興味深い編集コマンドに
ついてのみ解説します。
エディタのキーバインド割り付けの記述については、
emacs(1) と vi(1) を参照してください。
デフォルトでそれぞれのコマンドにバインドられた文字 (あるいは複数文字)
は、括弧の中に示しました。
`^character' は制御文字を意味します。
`M-character'はメタ文字です。
メタキーがない端末の場合は、escape-character とタイプします。
大文字小文字の区別はありますが、
デフォルトで英文字に割り付けられるコマンドは、便宜上、
大文字、小文字の両方にキーバインドされています。
complete-word (tab)
-
補完と一覧の項で解説しているとおり、単語を補完します。
-
complete-word-back (not bound)
-
complete-word-fwd と同様ですが、単語リストの終わりから、
上へあがって行きます。
-
complete-word-fwd (not bound)
-
現在の単語を、補完可能単語リスト上の始めの単語で置き換えます。
本コマンドを繰り返すことで、単語リスト上を下へ降りていくことができます。
単語リストの最後までいくと、ベルが鳴り、未補完の単語へ戻ります。
-
complete-word-raw (^X-tab)
-
complete-word と同様ですが、ユーザ定義した補完は無視されます。
-
copy-prev-word (M-^_)
-
現在の行で、1 つ前の単語を入力バッファへコピーします。
insert-last-word も参照してください。
-
dabbrev-expand (M-/)
-
以前入力した単語の中で、現在の単語が先頭部分文字列であり、しかも
最近のものを見つけて、それで展開します。
必要ならば、ヒストリリストを一周回って元に戻って探します。
dabbrev-expand を中断せず繰り返すことで、
その次の単語に変わります。
history-search-backward と同様に、同一のマッチングは
スキップします。
-
delete-char (割り付けなし)
-
カーソル下の文字を削除します。
delete-char-or-list-or-eof も参照してください。
-
delete-char-or-eof (割り付けなし)
-
カーソル下に文字があれば delete-char を実行し、
空行では end-of-file を実行します。
delete-char-or-list-or-eof も参照してください。
-
delete-char-or-list (割り付けなし)
-
カーソル下に文字があれば delete-char を実行し、
行の末尾では list-choices を実行します。
delete-char-or-list-or-eof も参照してください。
-
delete-char-or-list-or-eof (^D)
-
カーソル下に文字があれば delete-char を実行し、
行の末尾では list-choices を実行し、
空行では end-of-file を実行します。
これらの 3 つのコマンドも参照してください。
これらのコマンドは、それぞれ 1 つの動作を実行するだけです。
delete-char-or-eof, delete-char-or-list, list-or-eof は、
それぞれ 3 つのうちの異なる 2 つを実行します。
-
down-history (下矢印, ^N)
-
up-history と同様ですが、1 つずつ下に移動し、もとの入力行で止まります。
-
end-of-file (割り付けなし)
-
ファイルの終端であることをシェルに通知します。
シェル変数 ignoreeof (そちらも参照) がセットされて
いない場合、その結果として、シェルは実行を終了します。
delete-char-or-list-or-eof も参照してください。
-
expand-history (M-space)
-
現在の単語のヒストリ置換を展開します。
ヒストリ置換を参照してください。
magic-space, toggle-literal-history と、シェル変数
autoexpand も参照してください。
-
expand-glob (^X-*)
-
カーソルの左にグロブパターンを展開します。
ファイル名置換を参照してください。
-
expand-line (割り付けなし)
-
expand-history と同様ですが、入力バッファのそれぞれの単語の
ヒストリ置換を展開します。
-
expand-variables (^X-$)
-
カーソルの左に変数を展開します。
変数置換を参照してください。
-
history-search-backward (M-p, M-P)
-
ヒストリリストを後方へ向かって、入力バッファの現在の中身
(カーソル位置まで) で始まるコマンドを検索し、
それを入力バッファへコピーします。
検索文字列は、`*', `?', `[]', `{}' を含んだグロブパターン
(ファイル名置換を参照)
であってもかまいません。
up-history と down-history は、ヒストリリストの該当する
地点から始める事ができます。
Emacs モードのみです。
history-search-forward と i-search-back も参照してください。
-
history-search-forward (M-n, M-N)
-
history-search-backward と同様ですが、前方へ検索します。
-
i-search-back (割り付けなし)
-
後方へ、history-search-backward のように検索して、
最初に合致したものを入力バッファへコピーし、
カーソルをパターンの最後に位置させます。
そして、`bck: 'プロンプトと最初に合致したものを表示します。
追加の文字をタイプして、その検索を延長することができます。
i-search-back をタイプして、同じパターンで検索を延長する
こともできます。必要があれば、ヒストリリストを一周回って
元に戻って検索を続けます。
(これを行うためには、i-search-back は、1 文字に
バインドされていなければなりません。)
あるいは、以下の特殊文字をタイプすることもできます。
+8
+4
-
^W
-
カーソル下の単語の残りを検索パターンに加えます。
-
delete (あるいは backward-delete-char にバインドされた文字)
-
最後にタイプされた文字の効果をとりけし、
適当なら検索パターンから文字を削除します。
-
^G
-
前の検索が成功していたなら、検索全体を中止します。
そうでないなら、一番最後に成功した検索まで戻ります。
-
escape
-
検索を終え、入力バッファの現在の行をそのまま残します。
この他の文字で、self-insert-command にバインドされている
以外のものをタイプすると、検索が終了します。入力バッファの現在の行は
そのままになり、タイプした文字は通常の入力として解釈されます。
特に、キャリッジリターンの場合は、現在の行を実行に移します。
Emacs モードのみです。
i-search-fwd と history-search-backward も参照してください。
-
i-search-fwd (割り付けなし)
-
i-search-back と同様ですが、前方へ検索します。
-
insert-last-word (M-_)
-
1 つ前の入力行 (`!$') の最後の単語を入力バッファに挿入します。
copy-prev-word も参照してください。
-
list-choices (M-^D)
-
補完と一覧で解説しているように、補完の可能性を一覧表示します。
delete-char-or-list-or-eof と list-choices-raw も
参照してください。
-
list-choices-raw (^X-^D)
-
list-choices と同様ですが、ユーザ定義された補完を無視します。
-
list-glob (^X-g, ^X-G)
-
カーソルの左側のグロブパターン (ファイル名置換を参照) に
合致したものを (組み込みコマンド ls-F を用いて) 一覧表示します。
-
list-or-eof (割り付けなし)
-
list-choices を実行するか、または、空行の場合 end-of-file を
実行します。delete-char-or-list-or-eof も参照してください。
-
magic-space (割り付けなし)
-
まず expand-history と同様に、現在の行のヒストリ置換を展開して、
その後で空白を 1 つ付け加えます。
magic-space はスペースキーにバインドするように
設計されていますが、デフォルトではバインドされていません。
-
normalize-command (^X-?)
-
パスの中の現在の単語を検索します。そして、見つかった場合、
実行可能ファイルを指すフルパスで置き換えます。
特殊文字はクォートされます。エイリアスは展開されて、クォートされますが、
エイリアス中のコマンドは展開 / クォートされません。
このコマンドは、たとえば、`dbx' や `sh -x' などのように、
コマンドが引数を取得する場合に役立ちます。
-
normalize-path (^X-n, ^X-N)
-
シェル変数 symlinks の設定 `expand' の項で説明されているように、
現在の単語を展開します。
-
overwrite-mode (割り付けられていません)
-
入力モードと上書きモードの間で切り替えます。
-
run-fg-editor (M-^Z)
-
現在の入力行を保存します。そして、環境変数 EDITOR または
VISUAL のファイル名部分の最後の構成要素
(または、どちらもセットされていなければ、`ed' か `vi')
と等しい名前を持ち、ストップしているジョブを探します。
そのようなジョブが見つかれば、`fg %job' とタイプしたのと
同じように、実行再開されます。
これは、エディタとシェルの間を抜けて交互に切り替えるのを容易にする
ために使われます。
このコマンドを `^Z' にバインドし、もっと簡単に交互の切り替えが
できるようにする人もいます。
-
run-help (M-h, M-H)
-
補完ルーチンの `現在のコマンド' と同じ概念による
現在のコマンドのドキュメントを検索し、表示します。
ページャを使う方法はありません。run-help は短いヘルプファイルと
のために設計されているためです。
特別なエイリアス helpcommand が定義されていた場合、
コマンド名を唯一の引数としてその値が実行されます。
ほかに、ドキュメントのファイル名は、コマンド名.help,
コマンド名.1, コマンド名.6,
コマンド名.8, コマンド名のいずれかでなければなりません。
また、そのファイルは、環境変数 HPATH の中で、
一覧にあがっているディレクトリのうちの 1 つに入っていなければなりません。
もし、1 つ以上のヘルプファイルがある場合は、最初の 1 つのみが
プリントされます。
-
self-insert-command (テキスト文字)
-
挿入モード (デフォルト) では、タイプした文字を、
カーソル下の文字の後に挿入します。
上書きモードでは、タイプした文字で、カーソル下の文字を置き換えます。
入力モードは、通常、各行の間で維持されていますが、
シェル変数 inputmode を `insert(挿入)' あるいは、
`overwrite(上書き)' にセットしておくと、
エディタを、各行の始まりで、そのモードにすることができます。
overwrite-mode も参照してください。
-
sequence-lead-in (矢印接頭辞、メタ接頭辞、^X)
-
次に続く文字がマルチキーシーケンス (複数文字の連続) であることを
表します。マルチキーシーケンスをコマンドにバインドする場合、
実際には、次の 2 つのバインドを作ります。
まず、最初の文字を sequence-lead-in とします。そして、
シーケンス全体をそのコマンドにバインドします。
sequence-lead-in にバインドされた文字で始まる
すべてのシーケンスは、他のコマンドにバインドされていなければ、
実質的には undefined-key にバインドされたのと同じことに
なります。
-
spell-line (M-$)
-
spell-word と同様に、入力バッファ中の各単語のスペル訂正を
試みます。しかし、単語の最初の文字が、
`-', `!', `^', `%' のうちのどれかの場合と、
単語中に `\\', `*', `?' のいずれかを含んでいる場合は、
スイッチや、置換などの問題を避けるために、これらの単語を無視します。
スペル訂正を参照してください。
-
spell-word (M-s, M-S)
-
スペル訂正の項で説明されているのと同じやり方で、現在の単語の
スペルの訂正を試みます。
パス名として現れる単語の部分をそれぞれにチェックします。
-
toggle-literal-history (M-r, M-R)
-
入力バッファのヒストリ置換を展開したり、`しなかったり' します。
expand-history と、シェル変数 autoexpand も参照してください。
-
undefined-key (割り付けのコマンドが無いキー)
-
ベルを鳴らします。
-
up-history (上矢印, ^P)
-
ヒストリリストの中から 1 つ前のエントリを入力バッファにコピーします。
histlit がセットされている場合、その記入された文字どおりの
形式を使います。
ヒストリリストを上の方へ 1 つずつ移動を繰り返した場合、
一番上で止まります。
-
vi-search-back (?)
-
検索文字列 (history-search-backward と同様、グロブパターンでも
構いません) の入力のために `?' をプロンプト表示します。
その文字列を検索して、同じ文字列を入力バッファへコピーします。
合致するものが見つからなければ、ベルが鳴ります。
リターンキー (enter キー) を押すと、検索を終了して、入力バッファ中に
最後に合致した単語を残します。
escape キーを押すと、検索を終了して、合致したものを実行します。
vi モードのみです。
-
vi-search-fwd (/)
-
vi-search-back と同様ですが、前方へ検索します。
-
which-command (M-?)
-
入力バッファの最初の単語に対して、which (組み込みコマンド
の解説を参照) を実行します。
字句構造
シェルは入力された行をタブや空白で単語に分割します。
特殊文字 `&', `|', `;', `<', `>', `(', `)', 2 文字繰り返しの
`&&', `||', `<<' , `>>' は、空白で囲まれているか
どうかにかかわらず、常に単語の区切りになります。
シェルの入力が端末からではないとき、文字 `#' は、コメントの始まりと
して扱われます。`#' とその後ろの入力行の残りはコメントと解釈され、
文法解析されずに捨てられます。
特殊文字 (空白、タブ含む) は、その文字の直前にバックスラッシュ `\\'
を置くことで、または、単一引用符 `''、二重引用符 `'、
逆引用符 ``' で囲むことで、特殊な意味合いを持たないようにしたり、
場合によっては、他の単語の一部分にすることもできます。
他に引用がなされない限り、`\\' の直後に改行文字を置くと、改行文字は
空白扱いになります。しかし、引用中では、この文字の並びは改行文字に
なります。
さらに、ヒストリ置換を除く、すべての置換
(次項を参照) は、置換を含む文字列 (あるいは文字列の一部) を
単一引用符で囲むことで防ぐことができます。
あるいは、重大な文字 (たとえば、変数置換
ならば `$' や、コマンド置換ならば ``') を `\\' で
クォートすることで
防ぐことができます。(エイリアス置換も例外ではありません。
一度定義された alias に対して、何らかの方法でその単語の
どれかの文字をクォートすることで、そのエイリアスの置換を防ぐことが
できます。エイリアスをクォートする普通の方法は、そのエイリアスの前に
バックスラッシュを置くことです。)
ヒストリ置換は、バックスラッシュを用いることで防ぐことが
できますが、単一引用符では防ぐことができません。。
二重引用符、逆引用符でクォートされた文字列は、
変数置換とコマンド置換は受けますが、
その他の置換は受けません。
単一引用符、二重引用符で囲まれたテキストは 1 つの単語 (または
その一部) となります。
それらの文字列中のメタ文字 (空白、タブを含む) は、単語を分割しません。
ひとつだけ特殊な場合 (次のコマンド置換を参照) として、
二重引用符で囲まれた文字列を 1 つ以上の単語に分けることができます。
これは、単一引用符で囲まれた文字列では決してできません。
逆引用符は特殊で、コマンド置換 (そちらも参照) に、
影響を与え、その結果が 1 つ以上の単語になることもあります。
複雑な文字列をクォートする場合、特に、文字列自身にクォート文字が
含まれている場合は、わかりにくいかもしれません。
人間が書いたものの中では、引用符を引用のために使う必要はないことを
忘れないように!
文字列全体をクォートするのではなく、もし適当ならば異なるタイプの
引用符を用い、クォートする必要のある文字列の一部分のみをクォートする
ことの方が、簡単かもしれません。
シェル変数 backslash_quote (そちらも参照) を
セットすると、
バックスラッシュが常に `\\', `'', `' をクォートするようにできます。(+)
これによって、複雑な引用をする仕事が簡単になるかもしれません。
しかし csh(1) のスクリプトでは、構文エラーの原因になります。
置換
ここで、シェルが入力に対して行うさまざまな変換を、
処理が行われる順に記述します。同時に、処理に関わるデータ構造と、
データ構造に影響を与えるコマンドと変数とにも触れておきます。
字句構造のところで説明する引用により、置換を抑制できることを
覚えておいてください。
ヒストリ置換
端末から入力したコマンドひとつひとつ (イベント) は、ヒストリリストに
保存されます。直前のコマンドは常に保存されます。さらに、保存する
コマンド数を、シェル変数 history に設定することができます。
重複するイベントを保存するかどうか、同じイベントの連続をそのまま
保存するかどうかを、シェル変数 histdup に設定することが
できます。
保存されたコマンドには、1 から始まる連続した番号が振られ、
タイムスタンプが打たれます。普通イベント番号を用いる必要はありませんが、
シェル変数 prompt の中に `!' を置くことで、現在のイベント番号を
プロンプトの一部にすることができます。
実際のところ、シェルは、ヒストリを展開形式と
文字どおり (未展開) の形式とで保存しています。
シェル変数 histlit を設定しておくと、
ヒストリを表示する / ヒストリに保存するコマンドで
文字どおりの形式を用いるようになります。
組み込みコマンド history により、ヒストリリストの表示、
ファイルに保存、ファイルからの読み込み、クリアをいつでも行えます。
シェル変数 savehist と histfile により、
ヒストリリストのログアウト時の自動保存と、ログイン時の自動読み込みを
設定することができます。
ヒストリ置換により、ヒストリリストから単語の列を入力ストリームに
持ち込みます。これにより、前のコマンドの繰り返し、前のコマンドで使った
引数の繰り返し、前のコマンドで間違えたスペルの修正を
わずかなキー入力で、かなり確実に
容易に行うことができるようになります。
ヒストリ置換は、文字 `!' で始まります。ヒストリ置換は、
入力ストリームのどこから開始してもかまいませんが、入れ子には
できません。
文字 `!' の前に `\\' を置くことで、`!' の特殊な意味を打ち消すことが
できます。文字 `!' が、空白文字、タブ文字、改行文字、`='、`(' の
前にある場合は、そうした方が便利なので、無変更のまま渡されます。
入力行が `^' で始まる場合にも、ヒストリ置換が生じます。
この省略表現については後で説明します。
ヒストリ置換を示すための文字 (`!' と `^') は、
シェル変数 histchars を設定することにより変更することが
できます。入力行がヒストリ置換を含む場合、実行前に置換結果が
常に表示されます。
ヒストリ置換には「イベント指定」、「単語指定子 (word designator)」、
「修飾子 (modifier)」を含めることができます。イベント指定は、
どのイベントから単語の列を取り出すかを指定します。単語指定子は、
選択したイベントからどの単語を選ぶかを指定します。修飾子は、
選択した単語をどう操作するかを指定します。
イベント指定には、次のものがあります。
+4
n
-
番号: これはある特定のイベントを指定します。
-
-n
-
オフセット: これは現在のイベントの前 n 個目のイベントを
指定します。
-
#
-
現在のイベントを指定します。これは csh(1) の中では注意して
扱わねばなりません。csh(1) では、再帰呼び出しのチェックを
していないからです。tcsh では、再帰呼び出しは 10 レベルまで
許されています。(+)
-
!
-
1 つ前のイベントを指定します (`-1' と等価)。
-
s
-
先頭の単語が s で始まるイベントのうち、最も新しいものを
指定します。
-
?s?
-
文字列 s を含むイベントのうち、最も新しいものを指定します。
直後が改行文字の場合は、2 番目の `?' は省略可能です。
たとえば、次のようなヒストリリストがあるとします。
4
9 8:30 nroff -man wumpus.man
10 8:31 cp wumpus.man wumpus.man.old
11 8:36 vi wumpus.man
12 8:37 diff wumpus.man.old wumpus.man
コマンドが、イベント番号とタイムスタンプ付きで表示されています。
現在のイベントは、まだ入力していませんが、イベント 13 です。
`!11' と `!-2' は、イベント 11 を指します。`!!' は、直前の
イベントであるイベント 12 を指します。`!!' は、後ろに `:' が
付いている場合、`!' と省略することができます
(`:' は後で説明します)。`!n' は、`n' から始まっている、
イベント 9 を指します。`!?old?' は、`old' を含んでいる
イベント 12 を指します。単語指示子も単語修飾子もどちらも含まない場合、
ヒストリ参照はそのイベント全体を展開するだけです。ですから、
コピーコマンドを再実行したいときは `!cp' と入力しますし、`diff' の
出力が画面上端からスクロールして消えてしまう場合、`!!|more' と
入力します。
必要に応じ、中括弧で囲むことで、ヒストリ置換を前後のテキストから
分離することができます。たとえば、`!vdoc' とすると、`vdoc' で始まる
コマンドを探しますが、この例で見つからないにしても、`!{v}doc' では、
あいまいさもなく `vi wumpus.mandoc' に展開されます。
中括弧の中でも、ヒストリ置換は入れ子になりません。
(+) csh(1) では、たとえば `!3d' は、イベント 3 の後ろに
英文字 `d' を付加して展開しますが、tcsh では、これを `3d' で
始まるイベントのうち最新のものに展開します。つまり、完全な数値引数
だけをイベント番号と見なします。これにより、数字から始まるイベントを
呼び出すことが可能となります。`!3d' を csh(1) のように
展開させるには、`!\\3d' と指定してください。
イベントから単語を選択する場合、`:' と選択する単語を表す指示子を使い、
イベント指定を行うことができます。入力行の単語には、0 から始まる
番号が振られています。最初の単語 (普通、コマンドです) は 0 で、
2 番目の単語 (第 1 引数) は 1 といった具合です。基本的な単語指示子は
次のようになります。
+4
-
0
-
最初の単語 (コマンド)
-
n
-
n 番目の引数
-
^
-
最初の引数、`1' と等価
-
$
-
最後の引数
-
%
-
?s? 検索で一致した単語
-
x-y
-
ある範囲の単語
-
-y
-
`0-y' と等価
-
*
-
`^-$' と等価。但し、イベントが 1 単語しか含まない場合は何も返さない。
-
x*
-
`x-$' と等価
-
x-
-
`x*' と等価。但し、最後の単語 (`$') は除く。
選択した単語は、空白文字 1 つで区切られてコマンド行に挿入されます。
たとえば、`diff !!:1.old !!:1' と打ち込むことで、先の例の
`diff' コマンドを入力することもできます (`:1' で、直前のイベントから
最初の引数を選択しています)。また、`diff !-2:2 !-2:1' と
打ち込むことで `cp' コマンドの引数を選択し、入れ換えることができます。
`diff' コマンドの引数の順番を気にしなければ、`diff !-2:1-2' と
打ち込んでも構いませんし、単に `diff !-2:*' でも構いません。
`cp' コマンドは、現在のイベントを指す `#' を使い、
`cp wumpus.man !#:1.old' と書くことができます。`!n:- hurkle.man' は、
`nroff' コマンドから最初の 2 単語を再利用し、
`nroff -man hurkle.man' とすることになります。
文字 `:' は単語指定からイベント指定を分離しますが、引数選択子が
`^', `$', `*', `%', `-' で始まるとき、この文字 `:' は省略可能
です。たとえば、先ほどの `diff' コマンドは `diff !!^.old !!^'
もしくは `diff !!$.old !!$' でも構わなかったのです。
しかし、`!!' が `!' に省略可能である場合、`-' で始まる引数選択子は
イベント指定として解釈されます。
ヒストリ参照に、イベント指定のない単語指示子があっても構いません。
その場合、直前のコマンドを参照します。
\ Not true, but we thought it was for a long time ...
, unless a previous history reference
occurred on the same line in which case this form repeats the previous
reference. Thus `!?foo?^ !$' gives the first and last arguments from the
command matching `?foo?'.
実際には正しくありませんが、我々は長い間そう信じていました。
ただし、これは同じ行に前のヒストリ参照が現れない場合に限ります。
この場合、この形式は直前の参照を繰り返します。よって、`!?foo?^ !$'
は、`?foo?' に一致するコマンドから最初と最後の引数を与えます。
`diff' の例を続けるなら、単純に `diff !^.old !^' と入力することが
できます。もしくは、逆順の引数を得るだけならば、単に `diff !*' で
いいです。
ヒストリ参照の中の単語は編集可能です。つまり、単語の後ろに 1 つまたは
複数の修飾子 (修飾子それぞれは `:' で始まります) を付けることで
「修飾」可能です。
+4
-
h
-
先頭のもの 1 つを残し、パス名の構成要素の後ろの部分を削除します。
-
t
-
末尾のもの 1 つを残し、パス名の構成要素の先頭の部分を削除します。
-
r
-
ファイル名拡張子 `.xxx' を削除し、名前の基本部分だけを残します。
-
e
-
拡張子だけを残し、他をすべて削除します。
-
u
-
最初の英小文字を大文字に変換します。
-
l
-
最初の英大文字を小文字に変換します。
-
s/l/r/
-
l を r で置換します。
l は r と同様に、単なる文字列です。名付け親である ed(1)
コマンドのような正規表現ではありません。
`/' の代わりに任意の文字を区切り文字として使うことができます。
`\\' を使い、l や r の中で区切り文字をクォートすることが
できます。
r 中の文字 `&' は、l で置き換えられます。`\\' で `&' も
クォートできます。l が空 (``'') の場合、以前の置換の l 、
または以前のイベント指定 `?s?' の s を使用します。
最後の区切り文字の直後が改行文字の場合、その区切り文字を省略できます。
-
&
-
以前の置換を繰り返します。
-
g
-
後ろの修飾子を単語それぞれに適用します。
-
a (+)
-
後ろの修飾子を、ある単語だけにできるだけ多くの回数、適用します。
`a' と `g' をいっしょに用いて、修飾子をグローバルに適用することが
できます。現在の実装では、修飾子 `a' と修飾子 `s' を同時に使用すると、
無限ループに陥る可能性があります。たとえば、`:as/f/ff/' は決して
終わりません。この動作は今後変更されるかもしれません。
-
p
-
新しいコマンド行を表示しますが、実行はしません。
-
q
-
置換された単語をクォートし、それ以上の置換が起きないようにします。
-
x
-
q と同じです。ただし、単語を空白 / タブ / 改行文字のところで分割します。
修飾子は最初に見つかった修飾可能な単語だけに適用されます (`g' を
使用しない限り)。修飾可能な単語がない場合はエラーになります。
たとえば、先の例の `diff' コマンドは、`diff wumpus.man.old !#^:r' とも
書くことができます。これは、`r' を用いて、同じ行 (`!#^') の最初の
引数から `.old' を削除しています。`echo hello out there' と
言っておいてから、`echo !*:u' を使い `hello' を大文字にできます。
`echo !*:au' を使い大声で言うようにできます。`echo !*:agu' を使い
絶叫させることもできます。`mail -s I forgot my password rot'
の後で `!:s/rot/root' を続けることで、`root' のスペル間違いを直すこと
ができます (スペル間違いの訂正については、スペル訂正の項に
別のやり方があります)。
置換には特別な省略記法があります。`^' が入力行の先頭にある場合、
`!:s^' と等価です。よって、先の例でスペルを訂正するには、
^rot^root と言うこともできたわけです。これは明示的に `!' で
始まらないヒストリ置換としては唯一のものです。
(+) csh では、ヒストリ展開または変数展開に適用される修飾子は
1 つだけです。tcsh では、1 つ以上の修飾子が使用される可能性が
あります。たとえば、次のような場合を考えます。
4
% mv wumpus.man /usr/man/man1/wumpus.1
% man !$:t:r
man wumpus
csh では、この結果は `wumpus.1:r' となります。コロンが後ろに続く
置換は、中括弧を用いてコロンと区切る必要があります。
4
> mv a.out /usr/games/wumpus
> setenv PATH !$:h:$PATH
Bad ! modifier: $.
> setenv PATH !{-2$:h}:$PATH
setenv PATH /usr/games:/bin:/usr/bin:.
最初の試みは csh では成功しますが、tcsh では失敗します。
この理由は、tcsh は 2 番目のコロンの後ろに、`$' ではなく
修飾子があると思っているからです。
最後に、ヒストリはここで説明してきた置換だけでなく、エディタでも
利用することができます。編集コマンド
up-history, down-history,
history-search-backward, history-search-forward,
i-search-back, i-search-fwd,
vi-search-back, vi-search-fwd,
copy-prev-word, insert-last-word は
ヒストリリスト中のイベントを検索し、入力バッファにイベントを
コピーします。編集コマンド toggle-literal-history は、
入力バッファでヒストリ行を展開するか文字どおりに扱うかを切り替えます。
expand-history, expand-line はそれぞれ、現在の単語、
または、入力バッファ全体でヒストリ置換を展開します。
エイリアス置換
シェルは、エイリアスのリストを保持しています。このリストは、
alias, unalias コマンドを使って設定、削除、表示する
ことができます。コマンド行を解釈し単純コマンド (コマンドを参照)
に分割したあと、複数のコマンドを左から右へ、それぞれの最初の単語が
エイリアスを持っているかをチェックします。エイリアスを持っている
場合、最初の単語をエイリアスで置き換えます。置き換えたエイリアスが
ヒストリ参照を含む場合、元のコマンドを直前の入力行とみなして、
ヒストリ置換 (そちらも参照) が適用されます。
エイリアスがヒストリ置換を含まない場合、引数リストは変更されず
そのままです。
そのため、たとえば `ls' のエイリアスが `ls -l' だった場合、コマンド
`ls /usr' は `ls -l /usr' になります。ここで、引数リストは
影響を受けません。`lookup' のエイリアスが `grep !^ /etc/passwd'
だとすると、コマンド `lookup bill' は `grep bill /etc/passwd' に
なります。エイリアスを使い、パーザのメタ記法を利用できます。
たとえば、`alias print 'pr \!* | lpr'' は、引数を
ラインプリンタに pr(1) する ``コマンド''(`print') を
定義します。
コマンドの最初の単語がエイリアスを持たなくなるまで、エイリアス置換は
繰り返されます。(先の例のように) エイリアス置換が最初の単語を
変更しない場合、そのエイリアスに印を付けてループが生じない
ようにします。それ以外のループは検出され、エラー扱いになります。
シェルが参照するエイリアスがいくつかあります。特殊エイリアス
を参照してください。
変数置換
シェルは変数のリストを管理しており、それらは 0 個またはそれ以上の
個数の単語のリストを値として持ちます。シェル変数の値は、コマンド
set, unset により表示、変更することができます。システムは、
自分自身の ``環境'' 変数のリストを保持しています。環境変数は
コマンド printenv, setenv, unsetenv により表示、
変更することができます。
(+) `set -r' (参照) により変数を読み出し専用にすることが
できます。読み出し専用変数は、変更や unset ができません。これを
試みるとエラーになります。一度読み出し専用にした変数は、
書き込み可能に戻すことはできません。ですから、`set -r' は
注意して使用する必要があります。環境変数は読み出し専用に
することはできません。
シェルが設定、参照する変数がいくつかあります。たとえば、変数 argv
は、シェルの引数リストの複製で、この変数の値である単語は特別な方法で
参照されます。シェルが参照する変数の中には、トグルスイッチがあります。
シェルは、これらの変数が何の値を持っているかではなく、値が設定されて
いるかどうかにだけ影響を受けます。たとえば、変数 verbose は、
コマンド入力をエコーするかどうかを制御するトグルスイッチです。
コマンド行オプション -v がこの変数に値を設定します。
シェルが参照する変数すべてのリストは、特別なシェル変数にあります。
変数を数値として扱う操作もあります。コマンド `@' により、
数値計算を実行し、結果を変数に代入することが可能となります。
しかしながら、変数の値は常に (0 個以上の) 文字列として表現されて
います。数値として扱うために、空文字列は 0 と見なされます。
複数の単語からなる値の、2 番目以後の単語は無視されます。
入力行のエイリアス処理を終え、字句解析を終えた後で、そして、
各コマンドを実行する前に、`$' 文字をキーとして変数置換が行われます。
この展開は `$' の前に `\' を置くことで抑止できます。ただし、`' の
中は別で、ここでは常に変数置換が行われます。また、`'' の中も
別で、ここでは決して変数置換が行われません。``' で
クォートした文字列は後で解釈されますから、
(後のコマンド置換を参照)
そこでの `$' 置換は後になるまで行われません。`$' の後ろが空白、
タブ、改行文字の場合は、`$' 置換は発生しません。
入出力リダイレクトは、変数展開の前に識別され、別々に変数展開されます。
それ以外では、コマンド名と引数リスト全体が一緒に展開されます。ですから、
(この時点での) 最初の単語 (コマンド) から 2 つ以上の単語が生成される
可能性があります。展開後の複数の単語のうち最初のものがコマンド名となり、
残りの単語は引数になります。
`' で囲まれているか、修飾子 `:q' が指定されている場合を除き、
最終的には、変数置換の結果に対し、コマンド置換とファイル名置換が
適用されます。`' で囲まれている場合、値が複数の単語で構成される変数は、
1 つの単語 (の一部) に展開されます。
この単語には、その変数の値である単語が空白で区切られたものを
含みます。置換の際に修飾子 `:q' が適用される場合、変数は複数の単語に
展開されます。それぞれの単語は空白で区切られ、以後、コマンド置換と
ファイル名置換が適用されないようにクォートされます。
シェルへの入力に変数の値を持ち込むための方法として、以下の構文が
あります。特に注がない限り、設定されていない値の参照はエラーになります。
$name
${name}
-
変数 name の値である単語に置換します。この単語は、
それぞれが空白で区切られたものです。
中括弧は name とそれ以後の文字列とを分離し、以後の文字列も含めて
1 つの変数名として解釈されないようにします。シェル変数の名前は上限が
20 文字であり、先頭は英文字で、2 文字目以後は英文字か数字で
構成されます。アンダスコアは英文字と見なします。name が
シェル変数ではないが、環境に設定されている場合、環境の値を返します
(ただし、修飾子 `:' と次で示す他の形式は利用可能です)。
$name[selector]
-
${name[selector]}
-
name の値のうち選択した単語のみで置換します。selector は
`$' 置換が適用され、1 つの数値または `-' で区切った 2 つの数値で
構成することができます。変数の値の先頭の単語は 1 番目として数えます。
範囲の最初の値を省略した場合、デフォルトの値 1 になります。範囲の
最後の数値を省略した場合、デフォルトの値 `$#name になります。
selector `*' はすべての単語を選択します。2 番目の引数が
省略されるか、あるいは範囲に収まっている場合、範囲が空になっても
エラーになりません。
-
$0
-
コマンド入力を読み込んでいるファイル名で置換します。ファイル名が
不明の場合エラーになります。
$number
-
${number}
-
`$argv[number]' と等価です。
-
$*
-
`$argv' と等価です。これは `$argv[*]' と等価です。
ヒストリ置換のところで説明した `:' 修飾子 (`:p' を除く) が、
上記の置換に対して適用できます。2 つ以上の修飾子も適用できます。
(+) ヒストリ置換 (そちらも参照) と同様に、
変数置換とリテラルのコロンとを分離するために、中括弧が必要なことが
あります。修飾子は中括弧の中に置かねばなりません。
以下の置換は `:' 修飾子で修飾することはできません。
$?name
-
${?name}
-
name が設定されているときは、文字列 `1' で置き換えられます。
設定されていないときは、文字列 `0' で置き換えられます。
-
$?0
-
現在の入力ファイル名がわかっているときは、`1' で置き換えられます。
わかっていないときは、`0' で置き換えられます。
対話型のシェルでは、常に `0' です。
$#name
-
${#name}
-
name 中の単語の数で置き換えられます。
-
$#
-
`$#argv' と等価です。(+)
$%name
-
${%name}
-
name の文字数で置き換えられます。(+)
$%number
-
${%number}
-
$argv[number] の文字数で置き換えられます。(+)
-
$?
-
`$status' と等価です。(+)
-
$$
-
(親) シェルの (10 進数の) プロセス番号で置き換えられます。
-
$!
-
本シェルが開始したバックグラウンドプロセスのうち最新のものの
(10 進数の) プロセス番号で置き換えられます。(+)
-
$_
-
最後に実行したコマンドのコマンド行で置き換えます。(+)
-
$<
-
標準入力から読み込んだ 1 行を、一切解釈をせずにこの変数と置き換えます。
シェルスクリプト中で、キーボードから読み込む際に用います。(+)
csh は、`$<:q' と等価であるかのように、$< をクォートしますが、
tcsh はそうしません。それだけでなく、tcsh がユーザの
入力行を待つとき、ユーザは割り込みを入力して、置換されるべき行が
入る列を中断することができます。しかし csh ではそうすることが
できません。
編集コマンド expand-variables は、
通常は `^X-$' にバインドされていますが、
これを使って、個々の変数を対話的に展開することができます。
コマンド置換、ファイル名置換、ディレクトリスタック置換
組み込みコマンドの引数に対し、残りの置換が選択的に適用されます。
選択的とは、行の中で評価されなかった部分は、これらの展開の対象に
ならないという意味です。シェルの内部コマンドでないコマンドに対しては、
コマンド名は引数リストとは別個に置換されます。この置換は最後の方、
入出力リダイレクトを実行したあと、メインシェルの子供の中で生じます。
コマンド置換
``' で囲まれたコマンドは、コマンド置換を示します。囲まれたコマンドの
出力を、空白、タブ、改行文字のところで別々の単語に分割します。
この出力に変数置換、コマンド置換を実行し、
元の文字列があった場所に置きます。
ニ重引用符 (`') の内側のコマンド置換は、空白、タブを保存します。
改行文字だけは新しく単語分けを行います。
ただし、どのような場合でも最後の改行文字だけは新しい単語になりません。
ですから、1 行まるまる出力するようなコマンドでも、コマンド置換を
用いると単語の一部だけを生成することができます。
ファイル名置換
単語が `*', `?', `[', `{' のいずれかの文字を含む場合、または先頭が `~'
で始まる場合、その単語はファイル名置換 (あるいはグロブ (globbing) と
呼ばれます) の候補になります。このような単語をパターン
(グロブパターン) と見なし、そのパターンにマッチするファイル名の
リストをアルファベット順で整列したもので置き換えます。
ファイル名マッチの際に、ファイル名の先頭、または `/' の直後の
文字 `.' は、`/' と同様に、明示的にマッチさせなければなりません。
文字 `*' は、空文字列を含むどのような文字列にもマッチします。
文字 `?' は、どのような 1 文字にもマッチします。列 `[...]' は、
括弧の中で指定した文字のいずれかにマッチします。`[...]' 内では、
文字の対を `-' でつなぐことで、(文字順序で) その 2 文字の範囲にある
文字のいずれかにマッチします。
(+) グロブパターンの中には反転を指定できるものがあります。
列 `[^...]' は、括弧内の文字 / 範囲で指定していない文字
ちょうど 1 つにマッチします。
`^' により、グロブパターン全体を反転させることもできます。
4
> echo *
bang crash crunch ouch
> echo ^cr*
bang ouch
`?', `*', `[]' のいずれも使わないグロブパターンや、
`{}', `~' (あとで説明します) を使うグロブパターンは、
反転しても正しい結果を得られません。
メタ記法 `a{b,c,d}e' は、`abe ace ade' の省略記法です。左から右への
出現順序は保存されます。`/usr/source/s1/{oldls,ls}.c' は、
`/usr/source/s1/oldls.c /usr/source/s1/ls.c' に展開します。
マッチングの結果は下位のレベルで個別に整列され、出現順序は保存
されます。
`../{memo,*box}' は、`../memo ../box ../mbox' などに
展開されるでしょう (ここで、`memo' が `*box' のマッチング結果とともに
整列されていないことに注意してください)。この指定が展開された結果
ファイルが存在しなくてもエラーになりませんが、展開結果を渡した先の
コマンドでエラーになる可能性はあります。この指定は入れ子にすることが
できます。特殊な場合として、単語 `{', `}', `{}' は変更されずに
そのまま渡されます。
ファイル名先頭の文字 `~' は、ホームディレクトリを指します。単独で
用いられた場合、つまり `~' だけの場合、シェル変数 home の値に
反映されているように、呼び出したユーザの
ホームディレクトリに展開されます。`~' の直後に英文字、
数字、または文字 `-' で構成される名前が続く場合、シェルはその
名前を持つユーザを検索し、そのユーザのホームディレクトリに展開します。
ですから、`~ken' はたとえば `/usr/ken' に展開されます。
また、`~ken/chmach'は、たとえば `/usr/ken/chmach' に展開されます。
文字 `~' の後ろに英文字でもなく `/' でもない文字が続いた場合、
もしくは、文字 `~' が単語の先頭以外に現れた場合、変更されずに
そのまま渡されます。ですから、
`setenv MANPATH /usr/man:/usr/local/man:~/lib/man' のようなコマンド
では、期待通りのホームディレクトリ置換が起こりません。
`*', `?', `[', `~' のどれかを含むグロブパターン
(`^' は付いていてもいなくとも同じ) は、マッチするファイルが
ひとつもないとエラーになります。
しかし、グロブパターンのリストのうちのひとつでも
マッチすれば (他のものはマッチするものがなくても) エラーになりません
(したがって、たとえば `rm *.a *.c *.o' は、カレントディレクトリに
`.a', `.c', `.o' で終わるファイルがひとつもないときに限って
エラーになります)。
また、シェル変数 nonomatch が設定されている場合、
どれにもマッチしないパターン (あるいはパターンの列) は
エラーにならずに無変換のまま残されます。
ファイル名置換を止めるために、シェル変数 noglob を設定することが
できます。編集コマンド expand-glob は、通常は `^X-*' に結合されて
いますが、これを使い、個々のファイル名置換の展開を対話的に
行うことができます。
ディレクトリスタック置換 (+)
ディレクトリスタックはディレクトリの列であり、0 から番号付けられ、
組み込みコマンド pushd, popd, dirs
(そちらも参照) が使用します。
dirs コマンドを使用すると、ディレクトリスタックを
いつでも表示でき、ファイルに書き込むことができ、
ファイルから読み込むことができ、そしてクリアすることが
できます。シェル変数 savedirs, dirsfile に
値を設定することで、ログアウト時のディレクトリスタックの書き込みと、
ログイン時の読み込みを自動的に行うことができます。シェル変数
dirstack を使い、ディレクトリスタックの中を調べることができ、
ディレクトリスタックに任意のディレクトリを設定することができます。
文字 `=' の後ろに 1 桁以上の数字が続くと、それは
ディレクトリスタック中のエントリに展開されます。特殊な場合として、
`=-' はスタックの最新のディレクトリに展開します。たとえば、
次のようにです。
4
> dirs -v
0 /usr/bin
1 /usr/spool/uucp
2 /usr/accts/sys
> echo =1
/usr/spool/uucp
echo =0/calendar
/usr/bin/calendar
> echo =-
/usr/accts/sys
シェル変数 noglob, nonomatch と編集コマンド
expand-glob はファイル名置換と同様に
ディレクトリスタックにも適用されます。
その他の置換 (+)
ファイル名を含む変換が他にいくつかあります。厳密には先に説明した
ものと関係があるわけではありませんが、完全を期するために
ここで説明しておきます。変数 symlinks (そちらも参照)
が `expand' に設定されている場合、どのようなファイル名も
フルパスに展開される可能性があります。クォートすることで
この展開を止めることができ、編集コマンド normalize-path を
使用すると要求に応じて展開を止めることができます。また、編集コマンド
normalize-command は、PATH にあるコマンドを、
要求に応じてフルパスに展開します。
最後に、cd と pushd は `-' を以前の作業ディレクトリ
(シェル変数 owd と等価) と解釈します。これは置換でもなんでも
なく、このコマンドだけで認識される省略記法です。それでも、この表記も
クォートすることでこの解釈を止めることができます。
コマンド
次の 3 つのセクションでは、シェルがどのようにコマンドを実行し、
それらの入出力をどのように扱うかを説明します。
単純コマンド、パイプライン、コマンド列
単純コマンドは、単語の列であり、
その最初の単語が実行されるコマンドです。
`|' 文字によって区切られた一連の単純コマンドは
パイプラインを形成します。
パイプライン内のそれぞれのコマンドの出力は次のコマンドの
入力に接続されます。
単純コマンドとパイプラインは `;' 文字を使って
コマンド列に組み入れることができ、並んでいる順に実行されます。
コマンドとパイプラインは `||' や `&&' でコマンド列に
組み込むこともでき、C 言語で扱われるのと同様に、
最初のコマンドが失敗した時にだけ (`||'の場合)、
あるいは成功した時にだけ (`&&'の場合)、次のコマンドが実行されます。
単純コマンド、パイプライン、またはコマンド列は、
括弧 `()' を使って単純コマンドを形成することができ、
パイプラインやコマンド列の一部として使用できます。
コマンド、パイプライン、またはコマンド列の後に `&' を
置いて実行すると、そのコマンドの終了を待たずに
次のコマンドを実行できます。
組み込みコマンド、非組み込みコマンドの実行
組み込みコマンドは、シェルの中で実行されます。
パイプラインの構成要素の最後以外が組み込みコマンドのとき、
パイプラインは、サブシェル内で実行されます。
括弧で括られたコマンドは、常にサブシェル内で実行されます。
4
(cd; pwd); pwd
これは、現在のディレクトリを移動することなくくホーム
ディレクトリを表示 (その後に現在のディレクトリを表示) し、
その一方、
4
cd; pwd
この場合はホームディレクトリに移動します。
括弧で括られたコマンドは、たいてい cd が現在のシェルに
影響するのを防ぐために使用します。
実行するコマンドが組み込みコマンドでないことが判明すると、
シェルはそのコマンドを execve(2) を通じて実行しようとします。
環境変数 path 内の各語は、シェルがコマンドを検索する
ディレクトリを指定します。
-c, -t オプションのいずれも指定されていない場合、
これらのディレクトリ内の名前を内部テーブルでハッシュし、
そのコマンドが存在する可能性のあるディレクトリだけで
execve(2) の実行を試みます。
このことは、検索パス内のディレクトリの数が多い場合に、
コマンドの位置確定を大いに高速化します。
この機構が (unhash によって) オフにされ、
シェルに -c または -t のオプションが与えられるか、
それぞれの path のディレクトリ構成要素のいずれかが
`/' で始まっていない場合、シェルは現在の作業ディレクトリと
与えられたコマンド名を結合して実行するファイルのパス名を形成します。
ファイルに実行許可であってシステムが実行可能ではない場合、
(例 : 実行可能バイナリ、インタプリンタを指定したスクリプト
ではないとき)、それをシェルコマンドを含むファイルであるとみなし、
新しいシェルを起動してそのファイルを読み込みます。
シェルの特殊なエイリアスで、シェル自体ではなくインタプリタを
指定するように設定することもできます。
慣習的な‘#!' スクリプトインタプリタを理解しないシステム上では、
シェルはそれをエミュレートするようにコンパイルされます ; シェル変数
version を参照してください。
その場合、シェルがファイルの最初の行をチェックし、それが
`#!interpreter arg ...' の形式であるかどうかを
確認します。
この形式であれば、シェルは与えられた引数とともに
インタプリタを起動して、そのファイルを標準入力に供給します。
入出力
コマンドの標準入力と標準出力は以下の文法に従って
リダイレクトすることができます:
< name
-
ファイル name (変数、コマンド、ファイル名展開を受けます)
をオープンし、コマンドの標準入力とします。
-
<< word
-
word と同一の行が出現するまで、シェルの入力を読み込みます。
word は変数、ファイル名、コマンド置換を受けません。
シェル入力の行は読み込まれるとすぐ、置換を行う前に
word と比較されます。word に `\', `', `'', ``'
のクォートが出現しなければ、行の中でコマンド置換が実行されます。
この置換を抑制するために、`\' によって
`$', `\', ``' をクォートすることができます。コマンド置換において、
すべての空白、タブ、改行は保存されますが、最後の改行は削除されます。
読み込んだ行はすべてテンポラリファイルに保存され、
コマンドの標準入力として用いられます。
> name
>! name
>& name
-
>&! name
-
ファイル name を標準出力として用います。
ファイルが存在しなければ作成されます。すでにファイルが存在すれば
その内容は切り捨てられ、以前の内容は失われます。
+8
シェル変数 noclobber がセットされている場合、
ファイルが存在しないか文字型特殊ファイル
(端末や `/dev/null' のような) でなければ
エラーになります。これは、すでに存在するファイルを間違えて
削除してしまうことを防止します。`!' を用いた形式を使うと、
この検査を抑制することができます。
`&' を用いた形式では、標準出力とともに診断メッセージ
出力もファイルへリダイレクトされます。 name は、`<' の
入力ファイル名の場合と同様の展開を受けます。
>> name
>>& name
>>! name
-
>>&! name
-
`>' と同様に、ファイル name を標準出力として用います。
ただし、コマンドの出力はファイルへ追加されます。
変数 noclobber がセットされている場合、ファイルが
存在しなければエラーとなります。
`!' を用いることで、この検査を抑制することができます。
コマンドは、シェルが起動されたときの環境を引き継ぎます。
ただしこの環境は入出力のパラメータによって変更されますし、
コマンドがパイプラインの中にあった場合も変更されます。
したがって、以前のいくつかのシェルとは異なり、シェルの
コマンドファイルから起動されたコマンドは、デフォルトでは
そのコマンドのテキストへアクセスできません。かわりに
それらのコマンドは、シェルのもともとの標準入力をそのまま
受け継ぎます。
シェルスクリプトの内部で、コマンドにあらかじめ決まった
(inline) データを渡す場合には、標準入出力の形式ではなく、
`<<' の機構を使うことができます。
このように制限することにより、シェルコマンドスクリプトを
パイプラインの一部として用いることができます。
バックグラウンドで実行されているコマンドの標準入力も
/dev/null 等にリダイレクトされることなく、
シェルの標準入力をそのまま受け継いでいます。
もし標準入力が端末で、コマンドが端末から読み込もうとした場合、
そのプロセスはブロックされ、シェルはユーザにそのことを通知します
(ジョブの項を参照)。
診断メッセージ出力もパイプにリダイレクトすることが
できます。単に `|' のかわりに `|&' を使います。
シェルは、標準出力のリダイレクトなしで、診断メッセージ出力を
リダイレクトできなくなります。
そのため、`(コマンド > 出力ファイル) >&
エラーファイル' は、無難な予備手段としてされてます。
出力ファイル、エラーファイルのどちらかが、
端末に出力を送るための `/dev/tty' です。
特徴
ここではシェルがどのようにコマンドラインを受け入れ、
解釈し、実行するかを説明しました。
次は、便利な特徴について説明します。
制御フロー
このシェルには、
コマンドファイル (シェルスクリプト) や
(制約はあるものの便利な) 端末からの入力
処理の流れを制御するために使用できる
多くのコマンドを備えています。
これらのコマンドは、
入力の再読み込みや読み飛ばしを行うため
シェルを強制的に操作します。
これらの実装のために、幾つかのコマンドには制限があります。
foreach、switch、while 文は、
if 文の if-then-else 形式と同様に、
後で示すように入力行の単独の単純コマンド中に
主要なキーワードが現れることを要求します。
シェルの入力がシーク可能でない場合は、
ループが読み込まれると常に入力をバッファし、
この内部バッファをシークすることでループによる
再読み込みを可能にします。
(これを許可した結果、
後方へ向かう goto がシーク可能でない入力についても
成功することになります。)
式
組み込みコマンドの if, while, exit は
共通した文法を持った式を使います。
式には、次の 3 つのセクションの中で説明される
任意の演算子を含めることができます。
@ 組み込みコマンド (そちらも参照) 自体は、
文法を区切るので注意してください。
論理演算子, 算術演算子, 比較演算子
これらの演算子は C の演算子と
同じ優先順位となっています。
演算子には、次のものがあります。
4
|| && | ^ & == != =~ !~ <= >=
< > << >> + - * / % ! ~ ( )
ここに挙げた演算子は右側のものほど優先順位が高くなっています。
ただし、`==' `!=' `=~' `!~' の 4 つ、`<=' `>=' `<' `>' の 4 つ、
`<<' `>>' の 2 つ、`+' `-' の 2 つ、`*' `/' `%' の 3 つは
それぞれ同一のグループに所属しており、同じグループに所属している
演算子の優先順位は同じレベルとなっています。
演算子 `==' `!=' `=~' `!~' は引数を文字列として比較します。
他の演算子はすべて数値で比較します。
演算子 `=~' `!~' は `!=' `==' と似ていますが、
左側のオペランドにマッチするグロブパターン
(ファイル名置換を参照)
を右側に置くことが異なります。
必要なものに対してだけパターンマッチを行うので、
シェルスクリプト中における
switch 組み込みコマンドの使用の必要を減らします。
`0' で始まる文字列は 8 進数とみなされます。
空の文字列や引数がぬけているものは `0' とみなされます。
すべての式の結果は 10 進数で表される文字列になります。
特に、式の構成要素が同一の単語中に複数個現れることはないと
いうことに注意してください。
例外として、パーサに文法的に特別な意味を持つ式の構成要素
(`&' `|' `<' `>' `(' `)') が隣りにくることは構いません。
ただし、これらは空白で区切られるべきです。
コマンド終了ステータス
式の中でコマンドを実行することができ、
式を中括弧 (`{}') で囲むと
終了ステータスが返されます。
中括弧は、コマンドの単語から空白で区切ることを
忘れないでください。
コマンドの実行が成功した場合は、
真 (たとえば `1') を返します。
コマンドが 0 のステータスで終了した場合、
または実行に失敗した場合は、偽 (たとえば `0') を返します。
もっと詳しいステータスの情報が必要な場合は、
コマンドを式の外部で実行し、
シェル変数 status を調べてください。
ファイル問い合わせ演算子
これらの演算子のうち幾つかは
ファイルと関連するオブジェクトについて
真/偽の判定を行います。
これらは -op file の形式です。
op は次のうちのどれか 1 つです。
+4
r
-
読み取りアクセス
-
w
-
書き込みアクセス
-
x
-
実行アクセス
-
X
-
パス中にある実行可能ファイルやシェル組み込みコマンド。
たとえば `-X ls' と `-X ls-F' は一般に真であり、
`-X /bin/ls' はそうではない (+)
-
e
-
存在
-
o
-
所有者
-
z
-
サイズ 0
-
s
-
サイズが 0 でない (+)
-
f
-
通常ファイル
-
d
-
ディレクトリ
-
l
-
シンボリックリンク (+) *
-
b
-
ブロック型特殊ファイル (+)
-
c
-
キャラクタ型特殊ファイル (+)
-
p
-
名前付きパイプ (fifo) (+) *
-
S
-
ソケット型特殊ファイル (+) *
-
u
-
set-user-ID ビットがセットされている (+)
-
g
-
set-group-ID ビットがセットされている (+)
-
k
-
スティッキービットがセットされている (+)
-
t
-
file (これは数字でなければならない) は
端末デバイスに対してオープンしている
ファイル記述子である (+)
-
R
-
migrate されている (convex システムのみ有効) (+)
-
L
-
多重演算子の中でこの演算子の後にくる演算子は、
シンボリックリンクが指されているファイルではなく、
シンボリックリンクそのものに適用される (+) *
file はコマンドと展開されたファイル名で、
指定された実ユーザに対する関係があるかどうか
テストします。
file が存在していない場合、
もしくはアクセスできない場合、
`*' で示した演算子については、
指定のファイルタイプが現在のシステムに
存在していなければ
すべての問い合わせは偽 (たとえば `0') を返します。
s true
これらの演算子は、簡潔にするために連結することができます。
`-xy file' は `-x file && -y file' と等価です。(+)
たとえば `-fx' は
通常の実行可能ファイルに対しては真 (`1' を返す) ですが、
ディレクトリに対してはそうではありません。
s
L は多重演算子の中で使用できます。
この演算子の後にくる演算子は、
シンボリックリンクが指されているファイルではなく、
シンボリックリンクそのものに適用されます。
たとえば `-lLo' は
呼び出しユーザが所有しているリンクに対しては真です。
Lr, Lw, Lx は
リンクに対しては常に真で、
リンクでないものに対しては偽です。
L は
多重演算子の中で最後の演算子になった場合、
異なった意味を持ちます。
以下を参照してください。
s
file に渡すべき演算子と、そうでない演算子
(たとえば X と t)
を連結することは可能ですが、
実用的ではなく、しばしば間違いの元になります。
特に、ファイルでない演算子に L をつけると、
妙な結果になります。
他の演算子は他の情報、つまり単なる `0' や `1' だけ
ではない情報を返します。(+)
これらは前に示したのと同じ書式になります。
op は次のうちのどれか 1 つです。
+4
-
A
-
エポックからの秒数で表した、最後にファイルにアクセスした時間
-
A:
-
A と同じで、タイムスタンプの書式。
例: `Fri May 14 16:36:10 1993'
-
M
-
最後にファイルを変更した時間
-
M:
-
M と同じで、タイムスタンプの書式
-
C
-
最後に inode を変更した時間
-
C:
-
C と同じで、タイムスタンプの書式
-
D
-
デバイス番号
-
I
-
inode 番号
-
F
-
device:inode の形式で表した
複合 file 識別子
-
L
-
シンボリックリンクが指しているファイルの名前
-
N
-
(ハード) リンクの数
-
P
-
先頭に 0 がついていない 8 進数で表したパーミッション
-
P:
-
P と同じで、先頭に 0 がつく
-
Pmode
-
`-P file & mode' と等価。
たとえば、`-P22 file' は
file のグループと他者が書き込み可であれば `22' を、
グループのみであれば `20' を、何もなければ `0' を返す。
-
Pmode:
-
Pmode: と同じで、先頭に 0 がつく
-
U
-
数値で表したユーザ ID
-
U:
-
ユーザ名、ユーザ名が見つからなかった場合は数値で表したユーザ ID
-
G
-
数値で表したグループ ID
-
G:
-
グループ名、グループ名が見つからなかった場合は数値で表したグループ ID
-
Z
-
バイト数で表したサイズ
これらの演算子のうち 1 つだけ多重演算子の中に
現れることを許されていますが、必ず最後につける必要があります。
ただし、L は多重演算子の中の
最後とそれ以外の箇所では違った意味になるので注意してください。
なぜなら、`0' はこれらの演算子の多くにとって正当な返り値のためです。
これらが失敗した場合、`0' を返しません。
たいていの場合、`-1' を返し、F は `:' を返します。
このシェルが POSIX を定義してコンパイルされている
(シェル変数 version を参照)
場合、ファイル問い合わせの結果は、
access(2) システムコールの結果に基づいたものではなく、
ファイルの許可ビットに基づいたものになります。
たとえば、
通常は書き込み可であるが
読み取り専用でマウントされたファイルシステム上にある
ファイルを -w で検査した場合、
POSIX シェルでは成功し、
非 POSIX シェルでは失敗することになります。
ファイル問い合わせ演算子は
filetest 組み込みコマンド (そちらも参照)
と等価になり得ます。(+)
ジョブ
シェルはパイプラインの各々に対しジョブを 1 つずつ関連付けます。
シェルは、現在実行中のジョブの一覧表を保持しており、
これは、jobs コマンドによって表示することができます。
ジョブには整数の番号が割り当てられます。
ジョブが `&' を用いて非同期に起動された場合、
シェルは以下のような出力を行います:
4
[1] 1234
これは、非同期に起動したジョブがジョブ番号 1 であり、
プロセス ID が 1234 である (トップレベルの) プロセスを
1 つ持っていることを示します。
もし、あるジョブを実行中に他のことをしたくなった場合、サスペンドキー
(通常 ^Z) を押すことにより実行中のジョブに
STOP シグナルを送信することができます。
通常、シェルはそのジョブが一時停止した (Suspended) ことを出力し、
プロンプトを表示します。
シェル変数の listjobs が設定されていると、
組み込みコマンドの jobs のようにすべてのジョブがリストされます。
もしそれが `long' と設定されているとリストは `jobs -l' のような
長い形式になります。
ここで、一時停止したジョブの状態を操作することができます。
つまり、bg コマンドにより停止したプロセスを
``バックグラウンド'' で走行させたり、他のコマンドを実行してから、
停止していたジョブを fg コマンドにより
``フォアグラウンド'' で再実行させることなどができます。
(編集コマンドの run-fg-editor も参照してください。)
`^Z' は即座に効力を発揮し、割り込みと同様に、それまで待たされていた
出力とまだ読み込まれていない入力は捨てられます。
組み込みコマンドの wait はすべてのバックグラウンドのジョブが
終了するまでシェルを待機状態にさせます。
`^]' キーは遅延サスペンドシグナルを現在のジョブに送信します。
この場合はプログラムが read(2)
によって読み込もうとした時点で STOP シグナルが送信されます。
これは、実行中のジョブに対していくつかの入力を先に入力しておき、
先行入力を読み終えた時点でジョブを停止させたいときに便利です。
csh(1) ではこの機能は `^Y' キーに割り当てられていました。
tcsh では `^Y' は編集コマンドです。(+)
バックグラウンドで実行しているジョブが端末からの入力を試みた場合、
そのジョブは停止します。通常、バックグラウンドジョブが端末に
出力することは可能ですが、これはコマンド `stty tostop' により
禁止することができます。もしこの tty オプションを指定したなら、
バックグラウンドで実行しているジョブは、端末から入力を試みたときと
同様に、端末に出力を試みたときに停止します。
シェルでジョブを参照するにはいくつかの方法があります。文字 `%' は
ジョブ名を表すのに用いられます。番号 1 のジョブを参照する場合は
`%1' とします。単にジョブ名を入力した場合、そのジョブは
フォアグラウンドに移動されます。すなわち `%1' は `fg %1' と等価で、
ジョブ 1 をフォアグラウンドに移行します。同様に `%1 &' は、
ちょうど `bg %1' と同じようにのジョブ 1 をバックグラウンドで
再開させます。ジョブはそのジョブを起動したときにタイプされた文字列の
先頭部分によって参照することもできます。ただしこの先頭部分は
あいまいでない必要があります。すなわち `%ex' は、`ex' という文字列で
始まる名前のサスペンドされたジョブが 1 つしかない場合に限り、
サスペンドされた ex(1) のジョブを再開します。
文字列 string を含むジョブが 1 つしかない場合、`%?string' と
入力することでそれを指定することもできます。
シェルは現在のジョブと直前のジョブを覚えています。
ジョブに関係する出力で、`+' 記号が付加されているのが現在のジョブ、
`-' 記号が付加されているのが直前のジョブです。
`%+', `%' と (ヒストリ機構の文法との類似から) `%%' は
すべて現在のジョブ、`%-' は直前のジョブを参照するための省略形です。
ある種のシステムではジョブ制御機構を利用するために stty(1) の
オプション `new' を設定しておく必要があります。
ジョブ制御機構は `新型の' 端末ドライバの実装の上に構築されているからで、
新型の端末ドライバによりジョブを停止させるための割り込み文字を
キーボードから入力できるようになるからです。
新型の端末ドライバのオプション設定については stty(1) と
組み込みコマンドの setty を参照してください。
状態通知
シェルは、プロセスが状態の変化を起こすとすぐにそれを検知します。
通常はプロンプトが表示される直前にのみ、あるジョブが停止して
それ以上処理が進まなくなったことを通知します。これはユーザの仕事を
邪魔しないようにするためです。しかしながら、シェル変数 notify を
設定することにより、シェルにバックグラウンドジョブの状態が
変化したことをただちに通知させることができます。また、
シェルコマンド notify により、特定のジョブの状態の変化をただちに
通知させるようにマークすることもできます。引数なしの notify は
現在のプロセスに対してマークをつけます。バックグラウンドジョブの
開始直後に単に `notify' と打つとそのジョブをマークします。
停止したジョブが存在する状態でシェルを終了しようとすると
`You have stopped jobs.' という警告を受けます。このとき
jobs コマンドによりどのジョブが停止中であるのかを
確認することができます。警告を受けた直後に jobs コマンドで
確認した場合と、警告を受けた直後に再度シェルを終了させようとした
場合には、シェルは 2 度目の警告を行わずに停止中のジョブを
終了させてからシェルを終了します。
自動イベント、定期イベント、時刻指定イベント (+)
シェルの ``ライフサイクル'' において、いろいろな時間に自動的に
コマンドの実行と他のアクションを行うさまざまな方法が用意されています。
それらをここに要約し、詳しくは
組み込みコマンド、特別なシェル変数、特別なエイリアスの
適切な場所で説明します。
組み込みコマンドの sched はコマンドをイベントの予定表に置き、
指定された時刻にシェルによって実行されるようにします。
特別なエイリアスとして beepcmd, cwdcmd,
periodic, precmd, postcmd, jobcmd があり、それぞれ
シェルがベルを鳴らす時、作業ディレクトリが変わる時、
tperiod 分毎、各プロンプトの前、各コマンドの実行前、
各コマンドの実行後、ジョブの起動時またはフォアグラウンド移行時に
実行させたいコマンドを設定できます。
シェル変数の autologout を使って、指定した分数の休止後に
ログアウトまたはシェルをロックするように設定できます。
シェル変数の mail を使って、定期的に新しいメールを
チェックするように設定できます。
シェル変数の printexitvalue を使って、0 以外のステータスで
終了したコマンドの終了ステータスを表示するように指定できます。
シェル変数の rmstar を使って、`rm *' が入力されたときに
ユーザに間違いないかどうか確認を求めるように指定できます。
シェル変数の time を使って、指定した秒数より多く CPU 時間を
使ったプロセスの終了後に組み込みコマンドの time を実行するように
設定できます。
シェル変数の watch と who を使って、指定したユーザが
ログインまたはログアウトした時にレポートするように設定できます。
また組み込みコマンドの log でいつでもそれらのユーザに
ついてのレポートを得られます。
固有言語システムのサポート (+)
シェルは 8 ビットクリーンなので
(そのようにコンパイルされていれば。シェル変数の version を
参照)、それを必要とする文字セットをサポートします。
NLS サポートはシェルがシステムの NLS を使うようにコンパイルされているか
どうかによって異なります (再び、version を参照)。
どちらの場合でも 7 ビット ASCII がデフォルトの文字分類
(たとえばそれらの文字は表示可能) であり、そして順序づけです。
環境変数の LANG または LC_CTYPE を変更すると、
これらの点について変化の有無がチェックされます。
システムの NLS を使う場合には、文字の適切な分類と順序づけを決定するために
setlocale(3) 関数が呼び出されます。この関数は典型的には
環境変数の LANG と LC_CTYPE を調べます。
より詳細についてはシステムのドキュメントを参照してください。
システムの NLS を使わない場合には、シェルは ISO 8859-1 文字セットが
使われていると仮定することでシミュレートします。
変数 LANG と LC_CTYPE のいずれかが設定されていても、
それらの値を無視します。
シミュレートされた NLS では順序づけに影響しません。
加えて、本物とシミュレートされた NLS の両方で、\200-\377 の範囲、
つまり M-char でバインドされているすべての表示可能文字は、
自動的に self-insert-command に再バインドされます。
対応する escape-char へのバインドは、もしあればそのまま残ります。
これらの文字は環境変数の NOREBIND が設定されていれば
再バインドされません。この機能はシミュレートされた NLS や
すべてが ISO 8859-1 であると仮定した原始的な本物の NLS で有効でしょう。
そうでなければ、\240-\377 の範囲の M-char へのバインドは
事実上解除されます。この場合でも、もちろん bindkey で明示的に
関連するキーに再バインドする事は可能です。
未知の文字 (つまり表示可能でも制御文字でもないような文字) は
\nnn のような形式で表示されます。tty が 8 ビットモードになっていない
場合は、ASCII に変換して強調表示モードを使うことで別の 8 ビット文字が
表示されます。シェルは tty の 7/8 ビットモードを変更することはなく、
ユーザによる 7/8 ビットモードの変更に従います。NLS 利用者 (または
メタキーを利用したい利用者) は、たとえば ~/.login ファイルで
適切に stty(1) コマンドを呼び出すことで、
明示的に tty を 8 ビットモードに設定する必要があるかもしれません。
OS 固有機能のサポート (+)
個々のオペレーティングシステムで提供されている機能をサポートするために、
多くの新しい組み込みコマンドが提供されています。すべて
組み込みコマンドセクションで詳細に説明されています。
TCF をサポートするシステム (aix-ibm370, aix-ps2) では、
getspath と setspath でシステム実行パスを取得、設定し、
getxvers と setxvers で試験バージョンプリフィックスを取得、
設定して、migrate でプロセスをサイト間で移動させます。
組み込みコマンドの jobs は各ジョブが実行されているサイトを表示します。
Domain/OS では、inlib で共有ライブラリを現環境に追加し、
rootnode で rootnode を変更し、ver で systype を変更します。
Mach では、setpath が Mach の setpath(1) と等価です。
Masscomp/RTU と Harris CX/UX では、universe で universe を設定します。
Harris CX/UX では、ucb か att によって指定した universe で
コマンドを走らせます。
Convex/OS では、warp で universe を表示または設定します。
環境変数の VENDOR, OSTYPE, MACHTYPE は、
シェルが自身が実行されていると考えているシステムの、それぞれ
ベンダー、オペレーティングシステム、マシンタイプ
(マイクロプロセッサのクラスまたはマシンのモデル) を表示します。
これはいろいろなタイプのマシン間でホームディレクトリを共有する場合に
特に便利です。利用者はたとえば各自の ~/.login 中で
4
set path = (~/bin.$MACHTYPE /usr/ucb /bin /usr/bin .)
とし、各マシン用にコンパイルされた実行形式を適切なディレクトリに
置くことができます。
シェル変数の version は、どのオプションを選択して
シェルがコンパイルされたかを表示します。
組み込みの newgrp、シェル変数の afsuser と
echo_style、そしてシステムに依存するシェルの入力ファイル
(ファイルを参照) の位置にも注意してください。
シグナル処理
ログインシェルは ~/.logout ファイルを読んでいる間は
割り込みを無視します。
シェルは起動時に -q の指定が無ければ QUIT シグナルを無視します。
ログインシェルは TERM シグナルを捕捉しますが、非ログインシェルは
TERM シグナルへの挙動を親から継承します。
他のシグナルについては親からシェルに継承された値を持っています。
シェルスクリプトでは、シェルの INT と TERM シグナルの扱いを
onintr で制御できます。そして HUP の扱いを
hup と nohup で制御できます。
シェルは HUP で終了します (シェル変数の logout も参照)。
デフォルトでは、シェルの子供たちもそうしますが、シェルは終了時に
HUP を子供たちに送りません。hup はシェルが終了時に
子供に HUP を送るようにし、nohup は子供が HUP を無視するように
設定します。
端末管理 (+)
シェルは 3 つの異なる端末 (``tty'') モードの設定を使います。それらは
編集時に使う `edit'、文字リテラルをクォートする場合に使う `quote'、
コマンド実行時に使う `execute' です。
シェルは各モードでいくつかの設定を一定に保つので、
tty を混乱状態にして終了するコマンドがシェルに干渉することはありません。
シェルは tty のスピードとパディングの変更にも対応します。
一定に保たれる tty モードのリストは組み込みの setty で
取得、設定できます。エディタは CBREAK モード (または同等のモード) を
使いますが、先行入力された文字はいつでも受け付けられます。
echotc, settc, telltc コマンドを使って、
コマンドラインから端末のケーパビリティを操作、デバッグすることができます。
SIGWINCH か SIGWINDOW をサポートするシステムでは、シェルは
ウィンドウのリサイズに自動的に適応して、環境変数の
LINES と COLUMNS が設定されていれば値を補正します。
環境変数の TERMCAP が li# と co# のフィールドを含んでいると、
シェルは新しいウィンドウサイズを反映するようにそれらを補正します。